頭の体操

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   雛  ・     芥川龍之介“著”
その内に雛を手放す日はだんだん近づいて参りました。わたしは前にも申しました通り、格別それを悲しいとは思わなかったものでございます。ところが一日一日と約束の日が迫って来ると、いつか雛と別れるのはつらいように思い出しました。しかしいかに子供とは申せ、一旦手放すときまった雛を手放さずにすもうとはおもいません。ただ人手に渡す前に、もう一度よく見て置きたい。内裏雛、五人囃し、左近の桜、右近の橘、雪洞、屏風、蒔絵の道具、―――もう一度この土蔵の中にそう云う物を飾って見たい、―――と申すのが心願でございました。が、性来一徹な父は何度わたしにせがまれても、これだけのことを許しません。「一度手付けをとったとなりゃあ、どこにあろうが人様のものだ。人様のものはいじるもんじゃない」―――こうものでございます。
by taguchi  at 21:46 |  頭の体操 |  comment (0)  |   |  page top ↑
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